【落語】味噌豆(みそまめ)
「定吉、定吉!」
「へ~い。お呼びでございますか?」
「ちょっと台床へ行って味噌豆が煮えたかどうか見てきておくれ。」
「へい、わかりました。」
定吉は、台床へ行き、鍋のフタを取り、扇をしゃもじ様に広げ右手に持ち、左手に器を持ち、味噌豆をよそい、鍋にフタをする。
そして、ふぅふぅふーと豆を冷まし何粒か食べる定吉。
「旦那、おいしく煮えております。」
「な〜にが おいしく煮えておりますだ。だれがつまみ食いをしろと言った。煮えたかどうだか見てきておくれって、そう言ったんだよ。おまえには他にいろいろとやってもらいたい事がある。これをな、お向かいの三河屋さんに持っていってきな。」
「へい、わかりました。」
定吉が行ったのを確認した旦那は
「しかしさっきの味噌豆、うまそうだったな〜、どれあたしもひとつ食べてみよう。」
フタを取り、覗き込み、器によそいフタをし、何粒か食べる旦那
「うまい、うまいね、味噌豆ってのはいいね。え、おまんまのおかずにもなるし、酒のつまみにもなる。」
「しかしもし今、定吉が戻ってきたら「あ、旦那もつまみ食いをしてなさる」なんてことを言われるとあとで小言が利かなくなる。どっか隠れて食べるとするかな。」
「二階、二階は子供はタタタタっと上がって来るんだよな〜。押入れ、押入れは暗くて味気ないしな。どっかないかね、一人でいっぱいになるところで、だれも入ってこられない所・・・そうだ、はばかりだ!あそこなら誰も入って来んだろう。」
はばかり・・・現代でいうお手洗い(トイレ)のこと。人目を憚(はばか)っていくことから、はばかりと言っていたようです。
扉を開け、中へ入り、「あー、うまい、うまいものはどこで食べてもうまいねえ・・・。」
そうこうしてるうちに定吉が戻ってきた。
「旦那〜、只今戻りましたー。あら?旦那どっかへ出かけちゃったのかな・・・。」
「そうだ!今のうちにちょっとだけ味噌豆をつまみ食いしちまおう!」
「しかし今、旦那が戻ってくると「またつまみ食いしてんのか!」なんてまた怒られちまう。どっかに隠れて食べよう!どこがいいかな。」
「二階は旦那が昼寝してるとやだしな・・・押入れ、押入れ暗くて味気ないしな・・・どっかないかな〜・・・はばかりだ!あそこなら誰もこねえ!」
定吉もはばかりにいき扉を開けると、そこで味噌豆を食べている旦那がいた。
「あ!旦那!」
「定吉!何しに来た!?」
「へい旦那、味噌豆のお替りをお持ちしました。」
ピンチをチャンスに変えるには機転の早さも大事なようです。
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【落語】死神(しにがみ)
何かにつけて金に縁がなく、子供に名前をつける費用すら事欠いている主人公がふと
「俺についてるのは貧乏神じゃなくて死神だ」
と言うと、何と本物の死神が現れてしまう。
仰天する男に死神は
「お前に死神の姿が見えるようになる呪いをかけてやる。もし、死神が病人の枕元に座っていたらそいつは駄目。反対に足元に座っていたら助かるから、呪文を唱えて追い払え」
と言い、医者になるようアドバイスを与えて消えた。
そして男は医者と名乗り、ある良家の跡取り娘の病を呪文で治したことで、医者として有名になり、男は富豪となったが「悪銭身に付かず」ですぐ貧乏に逆戻り。
おまけに病人を見れば今度は死神がいつも枕元に・・・。
あっという間に以前と変わらぬ状況になってしまう。
困っていると、さる大店からご隠居の治療を頼まれた。
行ってみると死神は枕元にいるが、三千両の現金に目がくらんだ男は死神が居眠りしている間に布団を半回転させ、死神が足元に来たところで呪文を唱えてたたき出してしまう。
大金をもらい、大喜びで家路を急ぐ男は途中で死神に捕まり、大量のロウソクが揺らめく洞窟へと案内された。
訊くとみんな人間の寿命だという。「じゃあ俺は?」と訊く男に、死神は今にも消えそうなロウソクを指差した。
死神いわく
「お前は金に目がくらみ、自分の寿命をご隠居に売り渡したんだ」。
ロウソクが消えればその人は死ぬと言われ、パニックになった男は死神に必死に助けを求めると、
「では、燃えさしがあるから、これを繋いでみな」
と、死神から渡されたロウソクを寿命に継ぎ足そうとするが、恐怖で手が震えてうまく継ぎ足せない。
「何でそんなに震えて居るんだ。震えると消えるよ。消えると死ぬよ。」
「そんな事言わないで~」
「あぁ〜もう消えそうだ・・・消えてしまう・・・あぁ・・・消えた。」 バタッ
この噺は、ヨーロッパの死神説話を三遊亭圓朝が日本に輸入し、翻案したものとされています。
具体的にはグリム童話に収載された『死神の名付け親』、またはリッチ兄弟の歌劇『クリスピーノと死神』だと考えられているようです。
この噺の落ちは、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、自分の寿命であるロウソクの火を自分で確認するというシュールな部分であったり、その他の落ちでは、やっとのことで火を燃えさしに移すことに成功し、一息ついたところ、自分の息で火を吹き消してしまう、というような落ちもあるようです。
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【落語】動物園(どうぶつえん)
朝が弱く、力仕事が苦手で、口下手なため、仕事勤めが続かない男がいた。
ある日、ぴったりの仕事を世話してもらうことになった。
午前10時出勤でよく、何も持たないでよく、しゃべる必要もなく、昼食・昼寝付き1日1万円だという。
好条件に飛びついて紹介状を受け取った男が着いた現場は、なんと移動動物園。
移動動物園の園長は男に、虎の皮を渡した。
目玉展示の動物である虎が死んでしまったため、残った毛皮をかぶって虎になりすませ、という。
早速毛皮をかぶった男は虎の檻に入れられ、園長に虎の歩き方を教わった。
園長は、前足の方向と逆に頭を向けると虎らしく見えるといい、男の前でやってみせる。
開園時間になり、多くの観客が虎の檻にやって来た。
空腹だった男は、子供客の持っているパンほしさに思わず「パンくれ」
とつぶやいてしまう。それを聞いた子供にパンを投げ込んでもらうが、四つんばいの姿勢なのでうまく食べることができない。
仕方なく手でつかむが、とうとう子供に不審がられた。
男はうなり声をあげて子供を泣かせ、なんとかごまかした。
空腹が極まり、タバコも吸えず、難渋する男。
そんな中、動物園のアナウンスが「虎とライオンの猛獣ショー」の開催を告げた。
男は事前に説明を受けなかったので、慌てふためいた。
虎の檻の中にライオンが放たれて、男はパニックに陥った。
ライオンはうなり声を上げながら男の耳元に近づいて、
「心配するな、わしも1万円で雇われたんや。」
この噺は、『動物園の虎』『虎の見世物』『ライオン』『ライオンの見世物』ともいわれます。
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