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落語楽 - わかりやすい落語の噺 -

落語の噺を綴ってます

【落語】宿替え(やどがえ)a.k.a. 粗忽の釘(そこつのくぎ)

今日はとある夫婦の引越しの日。

慌てものの男は大きな風呂敷を広げて
「オレは風呂敷さえあったらどんなものでも持って行く」
と大言壮語。

櫓炬燵(やぐらごたつ)や漬物石から死んだお婆さんのオマルまで風呂敷に包んで、いざ転居先へ出発と思ったが風呂敷はびくともしない。

「コ~ラ!糞ったれめが…イヨオッと。…あかん。おい、かか。ちょっとオマル取ってんか。」
「オマル取っても変わらんやないか。」
「…それ言う手間で、なぜハイて言わんのじゃ…。早よ取れ。」
「取ったやないか・・・」
「イヨっと。動かん。おい、漬物石取れ。」
と大騒ぎの末、荷物すべて放り出しても動かない。

おかしいなと思ってよく見れば、移動の途中で中身がバラけないようにするために胴括りのつもりで掛けた帯が、家の敷居も一緒に括っていたのだ。

※ 大阪では賃貸住宅は借家人が畳や建具を持ち込む形式だったため、引越しの際は畳を揚げてしまって敷居が剥き出しになっている。

元通りにして無事に出発した男。
しっかり者の嫁はそのあと家を片付け、近所への挨拶も済ませて新しい家にやってきたが、先に行ったはずの亭主がいない。

掃除も済ませたころにようやく滝のような汗をかいた男がやってきた。
男は道中、チンドン屋や法華信者たちの提灯行列に付いて行ったり、対面から来た自転車に衝突した弾みからお婆さんが横手の溝にはまって病院へ連れて行ったり、ドタバタした挙句にやっと転居先にたどり着いたのであった。

あきれ返った嫁だが、気を取り直して亭主に
「箒(ほうき)を掛けるための釘を1本打ってくれ」と頼む。
「偉そうに言っても女じゃ釘の1本も打てやしない」と得意げな男。
「お前らがバカにするのもオレが今達者だからこそ。死んでしまったら秋の夜長に目を覚まし『いい男だったわねえ』と位牌を取り出して乳の間に挟まれてももう気持ちいいことはない・・・」
などとアホなことを言いながら金槌で叩いているうちに、釘を完全に打ち込んでしまったのだ。
しかも打ったのは八寸の瓦釘、打ち込んだ場所は柱ではなく長屋の壁。

隣宅に釘の先が出ているのは間違いない。嫁に怒られつつ慌てて家を飛び出した亭主。
「釘が出てませんか?」と尋ねて入ったのは隣でなくお向かいの家。
また慌てて飛び出し今度こそ隣の家へ。しかし隣からはどの辺に釘を打ったのかわからない。

「分からなんだら、うち帰って釘のとこ叩いて、どこならどこ、ここならここと言いなはれ。」と教えられ
もう一度自宅に戻った男はもういちど
「お隣の~。どこならどこ~。ここならここ~。」と叫びながら金槌で叩いてみる。
「おい、隣に越してきたやつ。大分アホやで。どこなら、どこ。言われたまま言うとるがな。何じゃえらいさわがしいなあ。」

すると・・・

隣宅の奥の間の仏壇、阿弥陀様が安置してあるすぐ横から釘の先が出ていたのだ。
大慌てで男を呼び戻した隣人。すると男は
「おたくはあんなところに箒かけたはりますのか?」
「何でや、あれはあんたが向こうから打った釘やないか」
「そりゃあ困ったなあ。」

「何が困った?」

「これからは毎日ここまで、箒を掛けに来んといかん。」

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『宿替え』は、上方落語の演目の名で、江戸落語では『粗忽の釘』の名で演じられています。

from のも

【落語】花見酒(はなみざけ)

幼なじみの二人。

そろそろ向島の桜が満開という評判なので
「ひとつ花見に繰り出そうじゃねえか」
と、話がまとまった。

ところが、あいにく二人とも金がない。

そこで兄貴分がオツなことを考えた。

横丁の酒屋の番頭に、灘の生一本を三升借り込んで花見の場所に行き、小びしゃく一杯十銭で売る。

酒のみは、酒がなくなるとすぐにのみたくなるものなので、
みんな花見でへべれけになっているところに売りに行けば必ずさばける。

もうけた金で改めて一杯やろう
という、何のことはないのみ代稼ぎである。

そうと決まれば桜の散らないうちに
と、二人は樽を差し担いで、向島までやって来る。

着いてみると、花見客で大にぎわい。

さあ商売だ!という矢先、弟分は後棒で風下だから、樽の酒の匂いがプーンとしてきて、もうたまらなくなった。

そこで、お互いの商売物なのでタダでもらったら悪いから、
「兄貴、一杯売ってくれ」
と言いだして、十銭払ってグビリグビリ。

それを見ていた兄貴分ものみたくなり、やっぱり十銭出してグイーッ。

俺ももう一杯、
じゃまた俺も、
それ一杯もう一杯
とやっているうちに、
三升の樽酒はきれいさっぱりなくなってしまった。

二人はもうグデングデン。

「感心だねえ。このごった返している中を酒を売りにくるとは。
けれど、二人とも酔っぱらってるのはどうしたわけだろう」
「なーに、このくらいいい酒だというのを見せているのさ」

おもしろい趣向だから買ってみよう、ということで、客が寄ってくる。

ところが、肝心の酒が、樽を斜めにしようが、どうしようが、まるっきり空。

「いけねえ兄貴、酒は全部売り切れちまった」
「えー、お気の毒さま。またどうぞ」

またどうぞも何もない。

客があきれて帰ってしまうと、まだ酔っぱらっている二人、売り上げの勘定をしようと、財布を樽の中にあけてみると、
チャリーンと音がして十銭銀貨一枚。

品物が三升売れちまって、売り上げが十銭しかねえというのは? 

「馬鹿野郎、考えてみれば当たり前だ。あすこでオレが一杯、ちょっと行っててめえが一杯。またあすこでオレが一杯買って、またあすこでてめえが一杯買った。十銭の銭が行ったり来たりしているうちに、三升の酒をみんな二人でのんじまったんだあ」

「あ、そうか。そりゃムダがねえや」

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酒呑みは、どんなときでもしくじるもののようです。

from のも

【落語】子ほめ(こほめ) a.k.a. 赤子褒め(あかごほめ)

隠居の所へやってきた八五郎。

入ってくるなり、『只の酒飲ませろ!』と言って隠居を仰天させた。

実を言うと、これは『只(タダ)の酒』ではなく『灘(なだ)の酒』の聞き間違いであったのだが、八五郎の態度に隠居は呆れ、『口が悪いと損をするぞ』と忠告した。

※ 灘の酒・・・兵庫県の灘地方で生産されている清酒。古くから良質の水と優秀な醸造技術からつくられた優良品と称されている。

隠居は、『損をしたくなかったら言葉遣いを直せ』と八五郎にアドバイス。

道で知人に出会ったら、相手に年齢を尋ねて相手が答えたらそれより若く見えるとおだてりすれば一杯ぐらいおごってもらえるんじゃないか。

例えば、50歳近くなら『如何見ても厄そこそこ』と言えば、男の厄年は41〜43歳なので、約10歳は若く見られたと相手は喜ぶと言うわけなのだ。

しかし、そう都合よく年配ばかりが通りかかるとも限らない。たまたま、仲間の竹に赤ん坊が生まれたので、祝いに行けば酒をおごってもらえると算段した八五郎は赤ん坊のほめ方はどうすればいいか質問をした。

それに対し、隠居は『顔をよく見て人相を褒め、親を喜ばせばいいんだ』とアドバイス。

「例えば、『この子があなた様のお子さまでございますか。あなたのおじいさまに似てご長命の相でいらっしゃる。栴檀(せんだん)は双葉(ふたば)より芳しく、蛇は寸にしてその気を呑むと言います。私も早く、こんなお子さまにあやかりたい。』とでも言えば良いのだ。」

※ 栴檀(せんだん)は双葉(ふたば)より芳(かんば)し・・・大成する者は、幼いときから人並み外れてすぐれていることのたとえ。

※ 蛇は寸にしてその気を呑む・・・大蛇はわずか一寸(約3cm)ほどのときから、人間を呑みこもうとする気迫を持っていることから、優れている人物は、幼いときから常人とは違ったところがあるというたとえ。

これで完璧。喜んで町に出ると、顔見知りの伊勢屋の番頭に会ったから早速おごって貰おうと声をかけた。

しかし、『町内の色男』と逆に褒められご馳走をさせられそうになってしまった。気を取り直して歳を訊くと、何と相手は四十歳。無理やり四十五歳だと言ってもらい、いくつに見えると質問されて『厄そこそこ』。

完璧に失敗し、逃げ出した八五郎は今度こそおごってもらおうと竹の所を訪れた。しかし、いざ褒める段になって台詞がまったくでてこない。

「おじいさまに長命丸飲ませましたな。洗濯は一晩では乾かず、ジャワスマトラは南方だ。」

最後の手段で年を尋ねると、竹が『(数え年で)一つ』と言うので、

「一つにしちゃあ大変お若い、どう見てもタダだ。」

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別題では「赤子褒め」とも言われているようです。

from のも