「定吉、定吉!」 「へ~い。お呼びでございますか?」 「ちょっと台床へ行って味噌豆が煮えたかどうか見てきておくれ。」 「へい、わかりました。」定吉は、台床へ行き、鍋のフタを取り、扇をしゃもじ様に広げ右手に持ち、左手に器を持ち、味噌豆をよそい、…
何かにつけて金に縁がなく、子供に名前をつける費用すら事欠いている主人公がふと「俺についてるのは貧乏神じゃなくて死神だ」と言うと、何と本物の死神が現れてしまう。仰天する男に死神は 「お前に死神の姿が見えるようになる呪いをかけてやる。もし、死神…
朝が弱く、力仕事が苦手で、口下手なため、仕事勤めが続かない男がいた。ある日、ぴったりの仕事を世話してもらうことになった。午前10時出勤でよく、何も持たないでよく、しゃべる必要もなく、昼食・昼寝付き1日1万円だという。好条件に飛びついて紹介状を…
季節がら梅が見ごろだと聴き、お供を連れて見物に来たある大家の奥様。言問橋のたもとまで来た所で、持病の「癪(シャク)」が起きてしまった。癪(シャク)・・・俗に、腹や胸に発作性の激痛をひきおこす病気の総称。七転八倒する奥様を前に、オロオロする…
良く晴れた1月25日、男が天満宮に参拝に出掛けようとした。すると女房は息子も連れていってくれと頼む。男は息子が物を買ってくれとうるさくせがむのが分かっており、乗り気ではなかったのだが折悪しく外から息子が帰ってくる。どうしても付いていきたいと懇…
冷え気(冷え性)に悩む男が丼池の甚兵衛さんに相談に来る。「それなら猪(しし)の肉がええ。心安うしている池田の狩人・六大夫さんとこ行っといで、紹介状書いてやるさかい。」 と、親切に行く道まで教えてもらう。男は物覚えが悪く行く先々で道を尋ね、農…
今日はとある夫婦の引越しの日。慌てものの男は大きな風呂敷を広げて 「オレは風呂敷さえあったらどんなものでも持って行く」 と大言壮語。櫓炬燵(やぐらごたつ)や漬物石から死んだお婆さんのオマルまで風呂敷に包んで、いざ転居先へ出発と思ったが風呂敷…
幼なじみの二人。そろそろ向島の桜が満開という評判なので 「ひとつ花見に繰り出そうじゃねえか」 と、話がまとまった。ところが、あいにく二人とも金がない。そこで兄貴分がオツなことを考えた。横丁の酒屋の番頭に、灘の生一本を三升借り込んで花見の場所…
隠居の所へやってきた八五郎。入ってくるなり、『只の酒飲ませろ!』と言って隠居を仰天させた。実を言うと、これは『只(タダ)の酒』ではなく『灘(なだ)の酒』の聞き間違いであったのだが、八五郎の態度に隠居は呆れ、『口が悪いと損をするぞ』と忠告し…
ある夏の昼下がり。暇な若い衆が寄り集まり暑気払いの相談をしていたが、「宵越しの銭は持たない」が身上の江戸っ子たちには金がない。困った一同、酒はどうにか都合するとしても、ツマミになる肴はないかと考える。なかには「爪楊枝」がいいというものまで…
春は花見の季節。周りはみな趣向をこらして、桜の下でのみ放題食い放題のドンチャン騒ぎをやらかすのが常だが、ここに登場するのはケチ兵衛という男、名前通りのしみったれ。そんなことに一文も使えないというので、朝から晩までのまず食わずで、ただ花をぼ…
天秤棒一本で行商をしている魚屋の勝は、腕はいいものの酒好きで、仕事でもお酒を飲みすぎて失敗が続き、さっぱりうだつが上がらない、裏長屋の貧乏暮らし。その日も女房に朝早く叩き起こされ、嫌々ながら芝の魚市場に仕入れに向かう。しかし時間が早過ぎた…
とある家にかわいい男の子が生まれました。七日たつのでそろそろ名前を考えようとする八五郎とおかみさん。でも、子どもの名前をつけたことがないので、どんな名前がいいかわかりません。そこで、物知りなお寺の和尚さんに名づけ親になってもらうことにしま…
殿様が目黒まで遠出した際に、家来が弁当を忘れてしまった。殿様一同腹をすかせているところに嗅いだことのない旨そうな匂いが漂ってきた。殿様が何の匂いかを家来に聞く。家来は「この匂いは下衆庶民の食べる下衆魚、さんまというものを焼く匂いです。決し…
暇をもてあました若者が数名集まり、怖いものを言いあっていく。 それぞれ「クモ」「ヘビ」「アリ」などと言う中で、"みっつぁん" という男が「くだらないものを怖がるとは情けない。世の中に怖いものなどあるものか」と言う。 他の男が「本当に怖いものはな…