落語楽 - わかりやすい落語の噺 -

落語の噺を綴ってます

【落語】芝浜(しばはま)

天秤棒一本で行商をしている魚屋の勝は、腕はいいものの酒好きで、仕事でもお酒を飲みすぎて失敗が続き、さっぱりうだつが上がらない、裏長屋の貧乏暮らし。

その日も女房に朝早く叩き起こされ、嫌々ながら芝の魚市場に仕入れに向かう。

しかし時間が早過ぎたため市場はまだ開いていない。

誰もいない、美しい夜明けの浜辺で顔を洗い、煙管(きせる)を吹かしているうち、足元の海中に沈んだ革の財布を見つける。

拾って開けると、中には目をむくような大金が入っていた。有頂天になって自宅に飛んで帰り、さっそく飲み仲間を集め、大酒を呑む。

翌日、二日酔いで起き出した勝に女房、こんなに呑んで支払いをどうする気かとおかんむり。

勝は拾った財布の金のことを訴えるが、女房は、そんなものは知らない、お前さんが金欲しさのあまり、酔ったまぎれの夢に見たんだろと言う。

焦った勝は家中を引っ繰り返して財布を探すが、どこにも無い。彼は愕然として、ついに財布の件を夢と諦める。


つくづく身の上を考えなおした勝は、これじゃいけねえと一念発起、断酒して死にもの狂いに働きはじめる。

懸命に働いた末、三年後には表通りに何人かの若い衆も使ういっぱしの店を構えることが出来、生活も安定し、身代も増えた。

その年の大晦日の晩のことである。勝は妻に対して献身をねぎらい、頭を下げる。

ここで、女房は告白をはじめ、例の財布を見せる。
あの日、勝から拾った大金を見せられた妻は困惑した。十両盗めば首が飛ぶといわれた当時、横領が露見すれば死刑だ。

長屋の大家と相談した結果、大家は財布を拾得物として役所に届け、妻は勝の泥酔に乗じて「財布なぞ最初から拾ってない」と言いくるめる事にした。

時が経っても落とし主が現れなかったため、役所から拾い主の勝に財布の金が下げ渡されたのであった。

事実を知った勝はしかし、妻を責めることはなく、道を踏外しそうになった自分を助け、真人間へと立直らせてくれた妻の機転に強く感謝する。

妻は懸命に頑張ってきた夫の労をねぎらい、久し振りに酒でも、と勧める。はじめは拒んだ勝だったが、やがておずおずと杯を手にする。

「うん、そうだな、じゃあ、呑むとするか」
といったんは杯を口元に運ぶが、ふいに杯を置く。

「よそう。また夢になるといけねえ」

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夫婦の愛情を暖かく描いた屈指の人情噺として、とても有名な噺です。

寄席では大晦日に演じられることが多いようです。

from のも