【落語】頭山(あたまやま)a.k.a. さくらんぼ
春は花見の季節。
周りはみな趣向をこらして、桜の下でのみ放題食い放題のドンチャン騒ぎをやらかすのが常だが、ここに登場するのはケチ兵衛という男、名前通りのしみったれ。
そんなことに一文も使えないというので、朝から晩までのまず食わずで、ただ花をぼんやり見ながらさまよい歩いているだけ。
しかし、さすがに腹が減ってきた。地べたをひょいと見ると、ちょうど遅咲きの桜がもうサクランボになって落ちているのに気づき、「こりゃ、いいものを見つけた」と、泥の付いているのもかまわず、一粒残さずむさぼり食った。
翌朝、どういうわけか頭がひどく痛んできて、「はて、おかしいぞ」と思っているうちに、昨日泥の付いたサクランボを食ったものだから、頭の上に桜の木の芽が吹いた。
さあ大変なことになったと、女房に芽をハサミで切らせたが、時すでに遅く、幹がにょきにょきっと伸び出し、みるみる太くなって、気がついた時は周りが七、八尺もある桜の大木に成長した。
さあ、これが世間の大評判になる。近所の人たちは大喜びで男の頭に上って、その頭を「頭山」と名づけ、ケチ兵衛の頭の上で花見をやらかす。
茶店を出す奴があると思うと、酔っぱらってすべり落ち、耳のところにハシゴを掛けて登ってくる奴もいる。
しまいには、頭の隅に穴を開けて、火を燃やして酒の燗をするのも出てくる始末。さすがにケチ兵衛、閉口して、「いっそ花を散らしてしまえ」というので、ひとふり頭を振ったからたまらない。
頭の上の連中、一人残らず転がり落ちた。これから毎年毎年、頭の上で花が咲くたびに、こんな騒ぎを起こされた日にはかなわないと、ケチ兵衛、町中の人を頼んで、桜の木をエンヤラヤのドッコイと引っこ抜いた。
ところが、あまり根が深く張っていたため、後にぽっかりと大きな穴が開き、表で夕立ちに逢うと、その穴に満々と水がたまる。
よせばいいのに、この水で行水すれば湯銭が浮くとばかりに、そのままためておいたのがたたって、だんだんこれが腐ってきて、ボウフラがわく、鮒がわく、鯰がわく、鰻がわく、鯉がわく。
そしてとうとう頭に大きな池ができあがった。こうなると、釣り師がどっと押しよせ、ケチ兵衛の鼻の穴に針を引っかけるかと思えば、釣り舟まで出て、芸者を連れてのめや歌えの大騒ぎ。
ケチ兵衛、つくづくイヤになり、こんな苦労をするよりは、いっそ一思いに死んでしまおうと、南無阿弥陀仏と唱えて、自分の頭の池にドボーン。
from のも