【落語】薬缶なめ(やかんなめ)
季節がら梅が見ごろだと聴き、お供を連れて見物に来たある大家の奥様。
言問橋のたもとまで来た所で、持病の「癪(シャク)」が起きてしまった。
癪(シャク)・・・俗に、腹や胸に発作性の激痛をひきおこす病気の総称。
七転八倒する奥様を前に、オロオロするお供の目に、道を歩く二人の男の姿が飛び込んできた。
「お待ちください!」
お供が声をかけたのは、たまたま通りかかった二人連れの侍、八五郎と源兵衛だった。
「奥様が今、持病のシャクで苦しんでおります。奥様のシャクには薬缶(やかん)をなめるのが一番。しかし、このへんにはなく、難渋していたところです。」
「で、それと俺たちに、いったい何の関係があるんです?」
首をかしげる源兵衛の頭を、お供はまっすぐに指差した。
「貴方の頭を、奥様になめさせてください」
実は源兵衛、まだ四十なのにもう頭がピカピカ。要は、源兵衛のヤカン頭を本当の薬缶に見立て、お嬢様になめさせる事でシャクを鎮めようという訳。
唖然となった源兵衛だが、人の命には代えられない。不承不承、ヤカン頭を差し出すと、奥様は遠慮なくその頭をベロベロ。
そのうち急に発作が起きたと見え、頭を思いっきりガブリ。
「御免なさい!どこかに、お傷がついてはおりませんか?」
「なーに、傷はつきましたが、漏ってはいません」
丈夫な頭で良かったです。
from のも