落語楽 - わかりやすい落語の噺 -

落語の噺を綴ってます

【落語】寿限無(じゅげむ)

とある家にかわいい男の子が生まれました。

七日たつのでそろそろ名前を考えようとする八五郎とおかみさん。

でも、子どもの名前をつけたことがないので、どんな名前がいいかわかりません。

そこで、物知りなお寺の和尚さんに名づけ親になってもらうことにしました。

さっそく八五郎は和尚さんをたずねます。
おめでたい、長生きするようないい名前を考えてもらいたいと言われた和尚さん、
「では、経文(きょうもん)の中に『寿限無(じゅげむ)』というのがあるがどうじゃ」と言いました。
寿限無」とは、「寿(ことぶき)限(かぎ)り無(な)し」、
つまり「おめでたいことがずっと続く。死ぬことがない」という意味です。

よろこんだ八五郎が「まだほかにありませんか」と言うと、
和尚さんは「五劫(ごこう)のすり切れ」というのがあると言いました。

「天女が三千年に一度、天から下界におりてきて、衣で大きな岩をひらりとなでる。
三千年に一度またおりてきて、ひらり。また、三千年に一度、ひらり。
そしてこの岩がすりきれてなくなってしまうのを一劫(いっこう)という。
五劫だからその5倍。何千、何億、何兆年とはてしなく続くところがおめでたい」と和尚さん。

「いいね。めでたいね。まだ他にありますか」とよろこぶ八五郎。
すると和尚さん、「海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)」というのがあると言います。
海砂利は海の砂、水魚は海の魚。捕っても捕ってもとりつくせないというところが、
果てしが無くておめでたい」。

よろこんだ八五郎に「まだほかにありますか」と聞かれ
「水行末(すいぎょうまつ)、雲来末(うんらいまつ)、風来末(ふうらいまつ)。
水の行く末、雲の行く末、風の行く末。どこまで追っかけても果てしがないところがおめでたい」。

まだほかにあるかと聞かれ、
「食う寝るところに住むところ」。これは人間が生きていく上で必要なもの。

まだほかにと聞かれ、「やぶらこうじのぶらこうじ」。
「やぶらこうじという木があってな。春、若葉を生じ、夏、花がさき、秋に赤き実をそえて、
冬に霜をもしのぐという、まことにおめでたい木だな」。

まだほかにと聞かれ、「昔の唐土(もろこし)にパイポという国があった。
そこにシューリンガンという王様とグーリンダイというお妃様がいて、
二人のあいだにポンポコピーポンポコナーというおひめ様が生まれ、みんな長生きをしたとつたえられる。

そしてもう一つ。“長く久しい命”と書いて長久命(ちょうきゅうめい)、
“長く助ける”と書いて長助などがすきな名前だな」と言いました。

すっかり気に入った八五郎、名前を全部紙に書いてもらいます。
寿限無 寿限無 五劫のすり切れ 海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末 食う寝るところに住むところ
 やぶらこうじのぶらこうじ パイポパイポパイポシューリンガン シューリンガングーリンダイ
 グーリンダイポンポコピーポンポコナーの長久命の長助」。

このなかから一つ気に入った名前をつけなさいと言われた八五郎ですが、
「全部おめでたいんだからもったいない。みんなつけちゃえ」ということで、世にも長い名前が生まれました。


こうして、名前が良かったのか、八五郎の息子はすくすくと育ちました。
小学校に上がると元気いっぱい、近所の子どもと喧嘩して相手に大きなこぶをこしらえたり・・・。

「うわーん、おばちゃん。おばちゃんとこの、寿限無 寿限無 五劫のすり切れ
 海砂利水魚の 水行末、雲来末、風来末 食う寝るところに住むところ
 やぶらこうじのぶらこうじ パイポパイポパイポシューリンガン
 シューリンガングーリンダイ グーリンダイポンポコピーポンポコナーの長久命の長助が、
 あたいの頭ぶってこんな大きなこぶこしらえた」と金ちゃん。

「あらまあ、ごめんなさいね。うちの、寿限無 寿限無 五劫のすり切れ
 海砂利水魚の 水行末、雲来末、風来末 食う寝るところに住むところ
 やぶらこうじのぶらこうじ パイポパイポパイポシューリンガン
 シューリンガングーリンダイ グーリンダイポンポコピーポンポコナーの長久命の長助が、
 金ちゃんの頭ぶって大きなこぶこしらえちゃったの。

ちょいとお前さん、聞いた? うちの、寿限無 寿限無 五劫のすり切れ
 海砂利水魚の 水行末、雲来末、風来末 食う寝るところに住むところ
 やぶらこうじのぶらこうじ パイポパイポパイポシューリンガン
 シューリンガングーリンダイ グーリンダイポンポコピーポンポコナーの長久命の長助がね、
 金ちゃんの頭ぶって大きなこぶこしらえたんですって」。

「なんだって。うちの、寿限無 寿限無 五劫のすり切れ
 海砂利水魚の 水行末、雲来末、風来末 食う寝るところに住むところ
 やぶらこうじのぶらこうじ パイポパイポパイポシューリンガン
 シューリンガングーリンダイ グーリンダイポンポコピーポンポコナーの長久命の長助が、
 金ぼうの頭ぶって大きなこぶこしらえたって?」。

おばあさんも出てきて、「なにかい、うちの孫の、寿限無 寿限無~」と大さわぎ。

ところが金ちゃんの頭を見た八五郎、「なんだい、こぶなんかどこにもねえじゃねえか」。

すると金ちゃん、「あんまり名前が長いから、こぶが引っこんじゃった」。

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寿限無』(じゅげむ)は、早口言葉あるいは言葉遊びとして知られる古典的な噺です。

寿限無寿限無
五劫の擦り切れ
海砂利水魚
水行末 雲来末 風来末
食う寝る処に住む処
藪ら柑子の藪柑子
パイポパイポ パイポシューリンガン
シューリンガングーリンダイ
グーリンダイポンポコピーポンポコナー
長久命の長助

じゅげむ じゅげむ
ごこうのすりきれ
かいじゃりすいぎょの
すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ
くうねるところにすむところ
やぶらこうじのぶらこうじ
ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん
しゅーりんがんのぐーりんだい
ぐーりんだいのぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの
ちょうきゅうめいのちょうすけ

from のも

【落語】目黒のさんま(めぐろのさんま)

殿様が目黒まで遠出した際に、家来が弁当を忘れてしまった。

殿様一同腹をすかせているところに嗅いだことのない旨そうな匂いが漂ってきた。

殿様が何の匂いかを家来に聞く。

家来は「この匂いは下衆庶民の食べる下衆魚、さんまというものを焼く匂いです。決して殿のお口に合う物ではございません」と言う。

殿様は「こんなときにそんなことを言っていられるか!」と言い、家来にさんまを持ってこさせた。

その時のさんまは網や串、鉄板などを使わず、サンマを直接炭火に突っ込んで焼かれた「隠亡焼き(おんぼうやき)」と呼ばれるもので、殿様の口に入れるようなものであるはずがない。

とはいえ食べてみると非常に美味しく、殿様はさんまという魚の存在を初めて知り、かつ大好きになった。


それからというもの、殿様はさんまを食べたいと思うようになる。

ある日、殿様の親族の集会で好きなものが食べられるというので、殿様は「余はさんまを所望する」と言う。

だが庶民の魚であるさんまなど置いていない。家来は急いでさんまを買ってくる。

さんまを焼くと脂が多く出る。それでは体に悪いということで脂をすっかり抜き、骨がのどに刺さるといけないと骨を一本一本抜くと、さんまはグズグズになってしまう。

こんな形では出せないので、椀の中に入れて出す。

日本橋魚河岸から取り寄せた新鮮なさんまが、家臣のいらぬ世話により醍醐味を台なしにした状態で出され、さんまはとても不味くなってしまった。

殿様はそのさんまがまずいので、「このさんまはどこで手に入れたものだ?」と聞く。

「はい、日本橋魚河岸で求めてまいりました。」と家来は答え、殿様はこう返す。

「ううむ。それはいかん。やはりさんまは目黒に限る。」

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この噺は、当時さんまという低級な魚を庶民的な流儀で無造作に調理したらとても美味かったが、丁寧に調理したら不味かった、という滑稽噺です。

落ちは殿様が、海と無縁な場所である目黒で食べた魚の方が美味いと信じ込んでそのように断言する、というところです。

世俗に無知な殿さまを風刺する話でもあります。

from のも

【落語】まんじゅうこわい

暇をもてあました若者が数名集まり、怖いものを言いあっていく。

 

それぞれ「クモ」「ヘビ」「アリ」などと言う中で、"みっつぁん" という男が「くだらないものを怖がるとは情けない。世の中に怖いものなどあるものか」と言う。

 

他の男が「本当に怖いものはないのか?」と聞くと、みっつぁんはしぶしぶ「本当はある」と白状する。

 

「では、何が嫌いなのか?」としつこく聞かれ、みっつぁんは小声で「まんじゅうがこわい」とつぶやく。

 

みっつぁんはその後、「話をしているだけで気分が悪くなったので帰って寝る」と言い出し、自分の家へ帰ってしまう。

 

残った男たちは「あいつ気に食わないから、まんじゅう攻めにして脅してやろう」と、

お金を出し合い、まんじゅうをたくさん買って、みっつぁんの家へどんどん投げ込む。

 

寝ていたみっつぁんは悲鳴を上げ、「こんな怖いものは食べてしまって、なくしてしまおう」「うますぎて、怖い」などと言ってまんじゅうをどんどん食べていく。

 

一部始終をのぞいて見ていた男たちは、みっつぁんにだまされていたことに気付く。

 

怒った男たちがみっつぁんを問い詰めた。

「本当に怖いものは何だ?」

 

みっつぁんはまんじゅうを美味しそうにほおばりながらこう言った。

 

「本当は熱いお茶がこわい」

  

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「まんじゅうがこわい」と言ってまんまと饅頭をせしめたみっつぁん、お茶も同じように「こわい」と言って、催促してみるという噺です。

 

from のも